1ドル300円になっても、昔のように日本全体が復活する、は考えにくいです。
安倍元首相が2022年に「円が300円になったらトヨタの車が3分の1で売れる。日本の製品の価格が3分の1になる。日本への旅行費も3分の1になる。そうすればあっという間に回復する」と発言したことが話題になりました。理屈は分かりやすいのですが、今の日本経済は1970年代と構造が変わっています。
300円になると何が起きるか
メリットとして言われること
- 輸出企業の帳簿上の利益爆増:外貨で稼いだ利益を円に直すと2倍になる。トヨタなどが業績予想を上方修正する理由がこれです。政府の見方でも円安は輸出企業の収益改善というプラスは認めています。
- インバウンドが爆発:外国人から見ると「日本が全部70%OFFセール」。観光、ホテル、小売は潤います。エコノミストも「インバウンドにメリットがあるのは誰が見ても明らか」と指摘しています。
- 工場の国内回帰の圧力:「海外で作るコストが2倍になるから、日本で作る方が安い」という状況を強制的に作れる、というのが1ドル300円待望論の核心です。
デメリットの方が今は大きいと見る企業が多数
- 輸出数量は増えない:ここ数年円安が続いても、日本からの輸出数量は増えていません。電機メーカーは中国・東南アジアへ、自動車メーカーは米国など消費地近くへ生産を移してしまったためです。為替に強い体質を作ってしまった結果、円安の恩恵は「円換算での手取りが増えるだけ」に留まっています。
- 輸入インフレが家計と中小を直撃:日本は燃料、食料、金属、デジタルインフラまで輸入依存です。ドルに対して円安が進むと海外への所得移転が起きやすい。牛肉は平年より30%UPなど生活費が上がり、企業調査でも63.9%が「円安は利益にマイナス」と答えています。
- 適正レートとの乖離:企業が妥当と考える水準は「110〜120円台」が50.1%で最多、「160円以上はわずか1%」という調査もあります。300円は完全に想定外で、原材料を輸入して国内で作る企業はコスト計算ができません。
結論:復活というより「分断」
- 昔のモデル:円安 → 輸出数量が増える → 工場増設 → 雇用・賃金増 → 個人消費増
- 今のモデル:円安 → 輸出数量は増えない → 大企業の円換算利益だけ増える → 輸入コスト増で家計と内需企業の利益が削られる
帝国データバンクやアナリストが指摘するように、必要なのは「通貨の価値を下げて価格競争力を確保するのではなく、生産性を高め、商品やサービスの付加価値を引き上げ、その対価として所得や外貨を獲得する経済構造へ転換すること」です。
1ドル300円になれば、一部の輸出大企業と観光地は一時的に潤いますが、食料・エネルギー・スマホのサブスクまで値上がりし、国民全体の実質購買力は大きく落ちます。300円で復活するなら、それはエネルギー自給(原発・再エネ)と食料自給を円で完結させてから、でないと「安いニッポンを外国人が買い叩く」状態が続くだけになります。
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