元ネタは英紙 フィナンシャル・タイムズ (FT) のレポートを、クーリエ・ジャポンが今日翻訳した記事です。
要点
**「餌を与えた"龍"が炎を吐いている」**は、米ハドソン研究所フェロー・長尾賢氏のコメントです
「We fed the dragon and it breathed fire」- 競争が激化する中国市場を指して
FTが報じた中身は、帝国データバンクの最新調査です:
- 2026年6月時点で中国本土に進出している日本企業は1万118社で、2010年の統計開始以来過去最低
- 2024年から約22%減、ピークの2012年(1万4394社)からは約30%減
- この2年間で過去最多の4137社が完全撤退、一方で新規進出は1221社と過去最低水準
帝国データバンクのアナリストは、これは拡大フェーズから再編フェーズへのシフトを明確に示すと分析しています。
なぜ今、加速しているのか
FTは理由を3つ挙げています:
- 経済的リスク:製造コスト上昇、不動産崩壊後の景気減速、産業の過剰生産能力、中国現地企業との激しい競争
- 政治的対立:2025年11月の高市早苗首相の台湾をめぐる「存立危機事態」発言をきっかけに日中関係が悪化、日本企業が矢面に立たされている。その後、中国が日本企業向けに重要鉱物の輸出制限を実施
- サプライチェーン再編:完全なデカップリングではなく、中国依存を下げるための多角化が目的。長尾氏は、投資先がベトナム、タイ、インドなどへ移っていると分析しています
企業の多くは関係の断絶ではなく、サプライチェーンの多角化を目的としていると説明しています。
帝国データバンクの調査自体は9月28日発表のものが元ですが、今回FTが外交悪化と結びつけて取り上げたことで話題になっています。
いえ、日本だけじゃないです。むしろ日本は遅い方で、世界中で同じ動きがもっと早くから起きています。 「China+1」「脱中国」「デリスキング」 と呼ばれる世界的な潮流です。
誰がどこに移しているか
1. 米国企業 - 一番アグレッシブに動いている
Apple、 Nike、Dellなど。
Appleは iPhoneの生産をインド (今は全体の20%以上)、AirPodsやMacBookをベトナムへ。政治的な対立に加えて、米中関税戦争で中国製に25%の関税がかかるようになったので、賃金というより関税回避が理由。
2. 韓国企業 - 日本より5〜10年早い
サムスンは2019年にスマホ工場を中国から完全撤退、ベトナムが世界生産の50%に。LG、現代も同じ。韓国の人件費高騰で、2010年代前半から中国→ベトナム・インドネシアへ移していました。
3. 欧米企業 - ブランドイメージも理由
アディダス、 H&M、ZARAなどアパレルは、ウイグル問題や人権リスクを避けて、バングラデシュ、カンボジア、トルコへ。ドイツの自動車部品メーカーのボッシュやコンチネンタルも、東欧(ハンガリー、ルーマニア)やメキシコへ生産を分散。
4. 中国企業自身も移している
意外ですが、中国のメーカー(例: 衣料品のSHEIN)も、米国の関税を避けるためにベトナムやメキシコに工場を建てています。
なぜ「賃金が安い」だけが理由じゃないのか
今回の日本企業撤退の記事でもそうですが、最近の理由は4つに変わっています:
- 賃金:昔はこれがメイン。中国の賃金はもうベトナムの2倍、バングラデシュの3倍。安い国に移すのは当然。
- リスク分散(デリスキング):コロナのロックダウン、今回のような外交問題で工場が止まる。1カ国に集中するのが怖い。
- 市場:中国で作っても、中国企業が強すぎて売れない。なら成長しているインドや東南アジアで作って売った方がいい。
- 関税:米中対立で、中国製を米国に輸出すると高関税。だからメキシコやベトナムで作って米国に輸出。
なので、FTの記事にある「中国事業の再編」も、単なる賃金安への逃避じゃなくて、中国で作るリスクが高くなり、中国で売る旨味も減ったから、結果的にベトナム、タイ、インドに軸足が移っている、というのが正確なところです。
日本企業は帝国データバンクの数字でも30%減ですが、欧米はもっと早いペースで「中国以外」の比率を上げています。
結局、行き着く先は同じサイクルを繰り返します。経済学では 「雁行形態論(がんこうけいたいろん)」 とか 「生産拠点の放浪」 と言われます。
日本自身がそのサイクルの見本なんです。
最後はこうなる - 4段階のサイクル
第1段階:安い国に行く - 今のベトナム、インドがここ
賃金が安いから工場が集まる。雇用が生まれて、国の経済は急成長する。中国が1990〜2010年に通った道です。
第2段階:その国が高くなる - 今の中国がここ
工場が集まりすぎると、人手不足で賃金が上がる。不動産も上がる。昔は安かったのに、今はベトナムの2倍、タイの3倍になって、「もう中国は安くない」となる。まさに今回のFTの記事の「餌を与えた龍が炎を吐く」状態。育てた国がライバルになって、自分たちの市場を食い始める。
第3段階:また次の安い国へ - 今の日本企業がここ
賃金が上がった中国を出て、さらに安いインド、バングラデシュ、カンボジア、エチオピアへ移る。でも10〜20年後、その国も賃金が上がってまた同じことになる。
この繰り返しで、1970年代は日本が世界の工場、1980年代は台湾・韓国、1990年代は中国、2020年代はベトナム・インド、2040年代はアフリカか…と拠点が移動し続けてきました。
第4段階:行き場がなくなる - 今の先進国がここに来ている
これが最後の結末で、3つのパターンに分かれます:
-
自動化して自国に戻る(リショアリング)
賃金がどこも高くなったら、人を使わずロボットで作る方が安くなる。日本や米国、ドイツが今やり始めていること。工場は人件費の安い国ではなく、電気代とロボット技術がある国に戻る。TSMCが熊本に工場を建てたのも、人件費じゃなくて補助金と安定供給が理由です。 -
現地で売るために現地で作る(地産地消)
「安いから作る」から「その国で売るからその国で作る」に変わる。インドで作るのはインド人に売るため、ベトナムで作るのはベトナム人に売るため。輸出用の安い工場ではなくなる。 -
残されたのは空洞化と格差
移転を繰り返した元の国や、移転先で取り残された地域には、環境破壊や低賃金労働の問題だけが残ることがある。工場が去った後、技術が残らず、賃金だけ上がって失業する。これが多くの途上国が陥る「中所得国の罠」です。中国も今、それを避けようと必死で、安い製品からEVや半導体のような高付加価値製品に移ろうとしている。だから競争が激しくなって、日本企業が「炎を吐かれた」と感じる。
要するに、安い国を追いかけ続けるモデルにゴールはないんです。だから最近の企業は「一番安い国」を探すのではなく、「中国一極集中をやめて、リスク分散で5カ国に分ける」「最後は自動化で日本に戻す」という考え方に変わってきています。FTの記事で帝国データバンクが「拡大から再編へ」と言っているのは、まさにその転換点です。
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